ベトナムの木材産業の近況

新型コロナウイルス感染拡大の状況

ベトナムにおけるコロナ感染対策は、入国者に対する査証発給停止、官公署の窓口閉鎖、外出自粛や検問所における体温測定とマスク着用チェックなどによる対策が功を奏し、7月までの感染者は百数十人程度で死者もゼロで推移した。

このため、徐々に市内の各所で営業活動が再開し、日系企業駐在員等の営業再開に向けた入国希望も多くなったことから、商工会が窓口となり、日本で発行された健康証明と14日間のホテル隔離を条件に、数百名の日本人がベトナムへ再入国した。

ところが、7月下旬以降、ベトナム中部地方ダナンでコロナの集団感染が発生し、8月4日には初めて4人の死者が出たため、政府はダナンを閉鎖し、現在、ホーチミンでもダナンへの渡航歴のある者の追跡調査を行っている。

8月25日現在、ホーチミン市内の政府関係機関の一部では、外国人の立ち入り禁止措置がとられており、ジャパンウッドステーション(JWS)のある南部森林研究所(FSIV)も同様な対応をとっている。

木材業界を取り巻く状況

ベトナム木材業界においてもコロナの影響は大きいものがあった。5月15日の木材業界関連政府会議では、「生産能力の向上により、2020年の輸出目標である約120億ドルを完全に達成できる。」とハコントゥアン副大臣が述べたが、期待と不安が交錯していた。

その後、ベトナム国内におけるコロナ感染が落ち着きを見せ、木材、木製品輸出は一部で契約の延期、キャンセル等があったものの、心配していたほどの影響は出ていないように見える。

8月時点における木材輸出動向にかかる動きは、概要以下のとおりである。

  1. 2020年8月1日、ベトナムとEU間の自由貿易協定(EVFTA)が正式に発効した。現在、ベトナムはEUに対し年間5億ドル以上を売上げ、253品目の木製品を輸出している。EVFTAが発効する前でも、117品目のEUへの輸入関税は0%であり、金額ベースで約90%の製品には関税がかかっていない。また、104品目の税率は、EVFTA導入前の1.7~6%から発効時に0%へ引き下げられるが、これらの年間輸出売上高は約5千万ドルで、EUへの年間輸出総売上高の10%以下に過ぎず、あまり効果を期待できないとみられる。
  2. 産業貿易省の農林水産業市場に関するレポートによると、2020年上半期における木材・木製品の輸出は、2019年の同時期に比べて2.4%増加し、49.8億ドルと推定され、そのうち、木製品は35.5億ドル(3%増)と推定されている。
  3. ベトナムの木材産業の主要市場トップ5(米国、中国、日本、韓国、EU-27)については、米国、中国市場への輸出額は安定的に拡大し、それぞれ18%、12%増加した。一方、日本、韓国、EUへの輸出は、それぞれ4%、5%、11%減少した。全体的には2020年上半期におけるコロナの影響は限定的とみられる。
  4. 農業・農村開発省(MARD)によると、今年7月までの木製品の輸出額は60億ドルを超え、前年同期に比べて6.2%増加した。輸出については林産部門の貢献が大きく、まだ輸出余力があるが、このままコロナの影響が長引く場合は、代替品への転換を模索するなど生産停止のリスクを回避する必要があるとしている。
  5. HCM木材産業協会(HAWA)によると、米中貿易戦争やコロナの影響からグローバルサプライチェーンが大きく変わろうとしている。4月以降HAWA主導で、政府機関、農業農村開発省、産業貿易省、財務省、木材協会、国内および国際組織および専門家の代表が参加し、「革新と持続可能な開発のための新しいイニシアチブと方向性」についてオンラインワークショップが開催されている。米国は、オーストラリア、日本、インドを含むグループダイアログ「ダイヤモンドカルテット(QUADグループ)」+3か国(ベトナム、韓国、ニュージーランド)による「繁栄ネットワーク」の確立を計画し、サプライチェーンを中国に依存しない、新たな経済ネットワーク構築を模索し始めている。
  6. 2020年3月にホーチミン市で、SIPPO(スイスの貿易関係プログラム)とHAWA、BIFA、FPA Binh Dinhなどの木材業界団体により、Technical Wood Working Group(TWWG)が設立された。TWWGは、ベトナムの木材産業の発展には、CLTやグルーラムなどの積層材による大規模構造物の建築や輸出促進が重要であるとして、セミナーなどによる情報交換を目的としており、JWSからも情報提供を行っている。
  7. 2020年8月にホーチミン市に設立されたHOPEは、HAWAが開拓したベトナム初のオンラインフェア・プラットフォームであり、約50のベトナムの家具メーカーと輸出業者が参加している。 HOPEは、コロナにより各種展示会が延期や規模縮小を迫られるとともに、海外からのバイヤーの訪問も限定的になっている状況を踏まえ、ベトナムの木材製品および木工品、美術品を、国際的なバイヤーへの認知とビジネスの拡大につなげるため、バーチャルリアリティー(仮想展示会)を導入したものである。これにより、各企業は、展示会や展示センターに直接行くことなく、各製品を詳細かつ鮮明に紹介できるようになった。
  8. ベトナム最大の木材流通業者であるTAVICO社では、2月から3月にかけて欧州からの木材輸入が滞ったが、これは中国から欧州向け輸出が停滞したことに伴い、欧州におけるコンテナが不足したため。また、コロナ関連の政府通達により、事業者はコロナを発生させないためのあらゆる対策を求められたため、TAVICO社においても、通常の半数程度の人員で業務を行い、丸太及び製材品の輸入も昨年に比べ70%程度減少している。