木材空間の音色
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写真1 長野県丸子町 信州国際音楽村多目的ホール「こだま」
(すばらしい木の世界、木材学会編、海青社(1995))
木質空間の音色と言えば、木材を使ったコンサートホールのすばらしい音の響きを連想します。昔から、コンサートホールには、石と並んで木材が使われてきました。ヨーロッパでは、木造のコンサートホールやオペラハウスが数多く建てられました。日本には、長野県の多目的ホール「こだま」(写真1)のような木造の新しいコンサートホールが各地に建てられています。古いところでは、上野公園の一角に移築された東京芸術大学の旧奏楽堂が木造です。木造以外のコンサートホールでも、天井や壁には木材が多く使われてきました。このように、木材がコンサートホールに使われてきたのは、木材が音をよく響かせるためだと考えがちですが、そうではありません。
木材が音に共鳴すれば、むしろ音のエネルギーを吸収してしまいます。コンサートホールの強い残響と豊かな低音の響きは、コンサートホールの大きな室容積と高い剛性の内装表面によって生まれます。図は、各地のコンサートホール等の室容積と500Hz のオクターブ帯域の残響時間との関係を示しています。木造あるいは木質材料の内装を多く使ったコンサートホールでも、図中の破線で示される最適残響時間曲線にのっています。
それでは、コンサートホールの残響時間さえ調整できれば、どんな材料を使っても同じなのかというと、そうではありません。経験的には木材の壁に比べて、大理石の壁は音の反射が強すぎると言われています。それから、忘れてならないのは木材の視覚的効果です。私たちは木材を見ていると、自然と気分がなごみます。コンサートホールの大きな木質空間に囲まれて、音響的効果と視覚的効果が融合し、聴衆は日常生活の中では得られない気分の高揚を感じます。やはり、木質空間の音色は、私たちにとって、最も親しみやすいものなのでしょう。
図 室容積と500Hzオクターブ帯域の残響時間の関係
(福島寛和:木の建築、No.16、木材建築フォラム(1990))