なぜ木材利用を進めるのか?
▶ 公共施設等の木材利用推進マニュアル(改訂版/平成13年3月)
Q1:なぜ木材利用を進めるのか?
世界的に見ると、再生の難しい熱帯雨林や北方林の減少が問題となっています。木材利用を進めることは、これらを促進することになるのでは?
熱帯林や北方林の伐採は持続的に生産できるように慎重にしなければなりません。他方、人工林は伐採して木材を生産するための森林です。木材は地球環境に対する負荷を最小限にとどめることが可能な資源なので、それらを有効利用することが必要です。 木材を利用する環境上のメリットは、大きく以下の2つであると言えます。
a. 再生産可能な生物材料であるため、永久に生産しつづけることができるb. 地球温暖化の原因となっているCO2の排出を抑えることができる
a. 再生産可能な生物材料であるため、永久に生産しつづけることができる
木材は森林から永続的に生産される生物材料です。もちろん、貴重な天然林、再生の難しい熱帯雨林や北方林の伐採は制限しなければなりません。しかし、木材はそういった天然林から生産されるだけではありません。世界にも日本にも、適切に管理され、木材の生産を目的とした人工林があり、そこでは伐採した後は植林され、健全な森林が再生されるように管理されています。貴重な天然林を「守る森林」だとしたら、人工林は「循環する森林」と言えます。
人工林においては、適切な時期に間伐を行い、間伐林を利用することが必要です。もし、間伐材を含む木材が使われなかったら、これらの森林を管理することができなくなります。現在の日本の人工林は、まさにこの状態に陥っています。間伐が行えず、やせたひょろ長い木が多くなって、森林の保水能力もなく、陽がささない暗く荒れた森林は、全国の至る所で目にします。これらを適切な状態にするためには、国内の人工林で生産される木材を有効に利用していくことが重要になります。現在ても、生産効率が良く、低コストであるため、熱帯雨林や北方林での伐採が続き、日本はそれらを輸入しつづけています(図1、2)。
しかし、国内に十分な森林資源がある日本が経済的な力を背景に世界中の木材を無秩序に輸入し続けるのではなく、適正な輸入を行うことが重要です。貴重な天然林からの輸入を減らし、適切に管理された人工杯から生産される木材を有効利用することが必要なのです。
図1 主要国別丸太輸入量の推移
農林水産物貿易レポート2001
図2 主要国別製材輸入量の推移
農林水産物貿易レポート2001
b. 地球温暖化の原因となっているCO2の排出を抑えることができる
これまでの日本の建築について考えると、我々はスクラップ&ビルドの状態を続け、資源を無駄に消費し、CO2を排出しつづけてきました。CO2の増大は、地球の温暖化を招き、大きな問題となっていることは周知の通りです。しかし、木材がCO2の問題を解決するために非常に有効な生物資源であることは、意外と知られていないようです。木はその成長過程で光合成を行い大気中のCO2を体内に固定します。そして、その後伐採され、木材として使用されたとしても、その固定状態は変わりません。廃棄され、腐って分解されるか、燃焼したとき初めてCO2に戻ります。したがって、木材を利用することは、そこにCO2を蓄積していることになるのです(図3)。
図3 建築物における木材資源の流れと環境負荷
有馬孝禮著「木材は環境と健康を守る」産調出版(株),1998
この話しをすると、CO2を定着しつづける木を伐採することは問題ではないかと考える方がいます。しかしその議論は、伐採された後に植林をしない場合にしか当てはまりません。逆に、若い木がどんどん成長する時が最もCO2の固定状況が良く、成長が極相状態に達した森林では光合成を行う部分と呼吸を行う部分との割合が近くなります。つまり、CO2の固定という面だけを見ると効果は小さくなるのです。「循環する森林」は適切な管理のもと、伐採して資源を循環させるべきなのです。
他の建材との比較で見ると、もっと顕著にそのメリットがわかります。鉄やアルミなどの建材は、その生産過程においてエネルギー消費が多く、極めて多くのCO2を排出しています。木材も、乾燥や運搬などの過程である程度のCO2を排出していますが、それは比較にならないほど小さなものです。
表1 各種材料製造における消責エネルギーと炭素放出量
材 料 | 化石燃料エネルギー | 製造時炭素放出量 | 製品中の炭素貯蔵量 kg/m3 | ±炭素量 kg/m3 | ||
MJ/kg | MJ/m3 | kg/ton | kg/m3 | |||
天然乾燥製材 (比重:0.50) | 1.5 | 750 | 30 (32) | 15 (16) | 250★1 | -235 -234 |
人工乾燥製材 (比重:0.50) | 2.8 | 1,390 | 56 (201) | 28 (100) | 250★1 | -222 -150 |
合 板 (比重:0.55) | 12 | 6,000 | 218 (283) | 120 (156) | 248★2 | -128 -92 |
パーティクルボード (比重:0.65) | 308 (345) | 10,000 | 218 (283) | 200 (224) | 260★3 | -60 -36 |
鋼材 アルミニウム コンクリート 紙 | 35 435 2.0 26 | 266,000 1,100,000 4,800 18,000 | 700 8,700 50 | 5,320 22,000 120 360 | 0 0 0 | 5,320 22,000 120 |
( )内は廃材燃焼による熱エネルギーの利用を考慮した場合。 廃材からの調達エネルギーを天乾材20MJ、人乾材1820MJ、また合板は人乾材の1/2、パーティクルボードは1/3とした。 ★1,★2、★3:炭素含有量をそれぞれ50,45,40%とした。 ±炭素量:製造時に放出された炭素量-製品中に蓄えられた炭素量(木材が生育時に大気中から吸収して固定した炭素量) BUCHANAN,A.1990,Timber engineering and the greenhouse effect. 1990 ITEC Proceedings.931~937(中島・大熊,1991,木村工業 46 127~131) |
図4 住宅建設時に放出される床面積あたり二酸化炭素重量(工法別)
有馬孝禮編著「木材は環境と健康を守る」産調出版(株),1998