木材利用によるユーザーのメリットは何か?
▶ 公共施設等の木材利用推進マニュアル(改訂版/平成13年3月)
Q2:木材利用によるユーザーのメリットは何か?
森林浴を行うと体に良いことはよく知られていますが、伐採後の木材を建築や内装に使うことによってユーザーにメリットはありますか?
木材は視覚、触覚、嗅覚、聴覚等の各感覚を介して、人に心地よい感じを与えると共に健康の維持・増進に寄与する建材です。 これは、経験的に知られていることですが、その科学的な検証は十分なされているわけではありません。ここでは、今までに行われた研究の一端を紹介します。
a. 室内空間の調湿性能b. 木材の暖かさと手触り、歩行感
a. 室内空間の調湿性能
湿度は、人間だけでなく他の生物にとって大きな影響があります。人間活動の点から見ると、死亡率、工業生産高、知的・社会的業績に関係し、相対湿度60~70%が最も好ましいという研究結果があります。また、高湿度下ではカビやダニが発生し、アレルギーの原因となるだけでなく、激しい湿度の変動は、美術工芸品や家財道具の劣化を促進させます。木材はこのような影響を与える室内の湿度を一定に保つ調湿性能を持っています。図5は同一タイプのモデル住宅の居間の湿度変化を示したものです。A,B棟のそれぞれの室内仕上げを以下に示します。床、天井についての違いはありません。
A棟 | B棟 | |
大壁構造 | 真壁構造 | |
幅 木 | ラワンオイルステイン仕上げ | ツガ無塗装 |
壁 | 石こうボード下地ビニルクロス張り | 石こうボード下地ビニルクロス張り 一部にスギ縁甲板 |
(a)A棟居間の相対湿度 | (b)B棟居間の相対湿度 |
図5外気相対湿度とモデル棟居室内の相対湿度
岡野建「木材のおはなし」日本規格協会,1992
B棟の方が、壁の一部にスギの縁甲板を使用し、柱、梁を露出させた真壁構造であるため、室内表面に木材が多く露出していることになります。その結果、湿度の変動幅はB棟ではA棟の半分以下となっています。
b. 木材の暖かさと手触り、歩行感
木の床と他の材料でできた床とでは、温かさ、歩行感が大きく違います。木の床では、コンクリート床やビニールタイル床に比べて、足の甲、ひざ、ふくらはぎの皮膚温度の低下が小さく、気温の変化に伴う皮膚温度の変動も小さくなることがわかっています(図6)。
図6冷房前気温または室温が同一の場合の冷房の有無による皮膚温の変化
岡野建ら編集「木材居住環境ハンドブック」朝倉書店,1995
また、足が床に接触した場合の熱移動量を測定すると、木の床が接触直後の温度低下が最も少なく、温度の回復も早いという実験結果もあります(図7)。
図7放熱容器と材料との接触面における熱流量と温度の変化
岡野建等編集「木材居住環境ハンドブック」朝倉書店,1995
これらが室内に木を使用した場合に温かみを感じる原因です。こうした木材の温かさの他、柔らかさも内装材、特に床材として優れている点です。体育館の床が木でできているのは、木材の持つ衝撃吸収力を利用し、利用者の怪我や故障を防ぐためです。体育館の床でなくても木の床の歩行感が心地よく感じるのは、こういった木材の持つしなりや柔らかさをうまく利用しているためです。ただし、コンクリートの床に薄い木質フローリングを張りつけた工法では、そういった性質をうまく利用できる状態ではなく、衝撃吸収力は期待できません。