木netのロゴ画像

白井貴子 インタビュー

白井貴子インタビュー後編 「この国のなかで育った木を使うってことが家のためにもいいんだろうなってことだと思うんです」

木への愛着を再確認し、森が自分の原点と感じている白井貴子は、新しい引っ越し先もまた森で決めてしまった。今、そこに建てる新居の構想を練りながらこの国の木で家を建てることの面白みにはまっていきつつある。

──森の未来についてどんなふうに考えていますか? いろいろな夢を持っている学生とか子どもたちに、私の小さい頃のように森に接する時間が当たり前にないといけないと思うんですよね。
この間、養老(孟司)先生といっしょにやったイベントで「参勤交代」ってことが書かれてて、“何なんだろう?”と思ってたら、都会の子どもと田舎の子どもを入れ替えてそれぞれの生活を体験させるシステムを作ろうっていうことなんですよね。私はすごくいいなあと思って。今の子どもたちは自然の中で楽しい思いも痛い思いも痒い思いもしていない。そういうことが生活の中に当たり前にあるような体験をさせてあげるときに、たとえば私のような木が好きな人間が育っていって、木に関わる仕事に就くようになる。大好きだからこそそういう仕事に就きたいという人たちを作っていくというようなことを早急にしないと…。
今からでは遅過ぎるくらいだと思うんですよね。やっぱり、好きっていう力がいちばん強いから、それがいちばん人生を支えていきますよね。だから、森を当たり前に愛することのできる子どもたちを育てていくということは、いま大人である人間がやらなきゃいけないことだと思いますね。

──白井さんも子ども時代に森と深く関わったことが大きいんですよね。 そうですね。だから、自信を持って言えるし。人間は街がなくても生きていけるけど、森が、自然がないと生きてはいけないから。そういうことが体でわかっているというか、そういうことがわかっている子どもを育てていかないと、いのちを粗末にしたり、そういうことにつながっていくと思うんですよね。

──森の中では楽しいことも怖いこともいろいろなことをセットにして体験するわけですからね。 そうなんですよ。気持ち悪いくらい(笑)。この間も、米粒ほどの体なのに足がこーんなに大きくてすっごい気持ち悪い虫がいたんですけど、その気持ち悪いと思うことが大切っていうか、楽しいんですよね。想像を絶する生き物がたくさんいて感動の嵐のはずなんだけど、親がそういうところで連れていかないから何も知らずに終わっちゃうし、たとえば“このキュウリは曲がってるから駄目”みいたいなそういう考え方から変えていかないと。

──引っ越しなさる伊豆も森があるところなんですか? そうなんですよ。ここ(藤沢)がこんなふうになっちゃうってわかっていれば、ここにしたのにとも思うんですけどね。私は海も好きだから両方あるのがいいな、なんて欲張ってたらどんどん南下して伊豆まで行っちゃったんですけど、そこにこれだ!と思う森がありまして、そこに決めちゃいました。

──その森はご自身でもいろいろと手入れされるんですか? 今はまだ勉強中なんですけど、この間、ある人に聞いたら、材木を作るための森はちゃんと間伐したりしてケアし続けなきゃいけない、と。でも、もともと自然の森はちゃんと自浄作用があって、枯れていったところから光が射し込んだりするっていう具合に自分で良くしていく作用を持ってるからって。
最初は自由に歌えるスタジオが欲しくてその森を手に入れたんですけど、なかなかプランが決まらなくて手に入れてから5年も経つのに柱1本建ってないんですけど(笑)

──その森の木を使って家を建てるんですか? その森の木というわけにはいかないでしょうが、ただちょっと聞いたことがあって、昔の人たちは家を建てる場合に、まず人間が住むだけでの土地を、木を伐り倒してつくりますよね。そこで、東の木を伐ったら東の柱にして西の木を伐れば西の柱にしたって。で、今はそんなふうに全部その地方で伐った木を使うっていうことは無理でしょうが、それにしてもこの国のなかで育った木を使うってことが家のためにもいいんだろうなってことだと思うんです。

──ご両親もいっしょに生活されるということですから、やっぱり木を使った日本家屋が落ち着くでしょうね。 そうですね。でも、両親はやっぱり立派な床の間があって、みたいな家を望んでるみたいですが、私は全然そういうつもりがなくて(笑)、近くの古い家から木をもらってきて建てるみたいなことでもいいかなって思ってるんですけどね。
以前、日本中の古民家を残す取り組みをしている人たちを訪ねて回るという仕事をやったことがあって、そこで知り合った人たちがみんな柱1本あげるよって言ってくださるんですよ。本当にありがたいことなんですけど、ただできるだけ近くから持ってきたほうが輸送にかかるいろんなコストも少なくて済むから、できる限り伊豆のなかでやれないかなと思ってるんです。天城のあたりが杉のいい産地だったりしますからね。
だから、国産の木は高いということがあるみたいですけど、それはみんなが使うようになれば安くなっていくだろうし、でもそうなるとまた木を育てていくこともがんばらなきゃいけないわけで、なかなか気の遠くなるような作業だとは思うんですけど、それにしても私もその参加者のひとりになりたいなと思ってるんです。
今、ちょっとやってみたいと思っていることがひとつあって、新月の夜に伐採すると、その木は腐りにくいということがあるそうなんですよ。新月伐採というそうなんですけど。

──建てる楽しみもあるし、勉強する面白みもある、ということですね? 本当に森がひとつあるだけで、大人になってもいろんなことが学べるし…。まあ、どこにいても勉強はできるんですけど、でも自分のものだと思えば大切にもしますからね(笑)

<< 前編を読む

白井貴子

1981年デビュー。「CHANCE」のヒットをきっかけに女性ポップ・ロックシンガーの先駆者的存在に。
1996年より3年間、NHK「ひるどき日本列島」のレギュラーとして活躍。エンディングテーマ曲「元気になーれ」で全国150箇所を旅した。
2000年神奈川県の21世紀の合唱曲「ふるさとの風になりたい」作曲。CD化。
2003年TBSラジオ環境キャンペーンテーマーソング「美しい地球」発表。今年、伊豆の森にエコロジックハウス&スタジオ建設予定。
2006年デビュー25周年にあたり、自身のバンド「TAKAKO & THE CRAZY BOYS」が18年ぶりに活動再開。
official site >> TAKAKO SHIRAI OFFICIAL WEB SITE "TAKAKO SHIRAI THE PEACE ON EARTH"