薬剤処理木質建材の種類と特徴
防腐・防蟻処理木材
防腐剤注入処理
木材を腐れやシロアリの被害から守るためには、防腐・防蟻処理をする必要があり、木造建築の寿命を長くするためには忘れてはならないことです。しかし、建築の現場で処理を行っても十分な効果を期待することはできません。そこで、工場において十分な品質管理のもとで、効果的に防腐・防蟻薬剤を木材中に深く浸透させる必要があります。このような処理をした木材を防腐・防蟻処理木材といいます。
製造法:薬剤を木材の表面から均一に浸透させるためにインサイジング加工(材の表面に細かい切り込みを適当な間隔で入れること)をしてから、木材を乾燥し、密閉タンクの中に入れて約15kgf/c?の圧力で薬剤を圧入するという加圧式処理法を用いています。
このようにして処理した木材は日本農林規格(JAS)や日本工業規格(JIS)によって規格化され、その性能基準に合格したものをJASあるいはJISマークをつけて販売しています。また、JAS、JISに規定されていない新しく開発された防腐・防蟻処理木材については(財)日本住宅・木材技術センターが優良木質建材として認証したものをAQマークをつけて販売しています。
加圧注入用防腐・防蟻剤
難燃処理木材
薬剤処理による耐火性の向上
木材が燃えるということは、昔から大事な燃料であったくらいですからよく知られています。しかし、このことは、火災の原因となるわけですから、大きな欠点でもあります。この欠点の影響を少なくするためには、木材の中に薬剤を注入する方法があります。ただ、木材は温度が高くなれば、どのようにしても、分解して燃えてしまいますので、火を防ぐことが出来ませんが、燃え難くすることは出来ます。薬剤処理によって燃え難くした木材を難燃処理木材と呼びます。難燃処理をした製材品は、船舶用以外には非常に少ないですが、合板の場合は製品化されています。
製造法:製材品には加圧処理がされますが、合板の場合は単板を浸漬処理をする場合があります。薬剤によっては、効果を出すために、10%以上の濃度を必要とするのが一般的ですので、何種類かの薬剤を配合したものが多いです。日本農林規格には難燃合板、日本工業規格には防火合板の規格があります。
難燃処理木材の特徴
- 難燃処理薬剤にはりん酸塩や臭化物のアンモニュウム塩とほう素化合物などの混合薬剤が多いです。
- アンモニュウム塩は加熱されると、アンモニアガスを出して、可燃ガスを薄め、ほう素化合物を溶融して防火皮膜を作ります。
- この処理により、木材の燃焼速度は遅くなり、炎の広がりが押さえられ、炭化が促進され、燃焼が早く終わります。また、煙の発生が少なくなり、有毒ガスの発生を押さえます。
- 薬剤によって、木材の強度が低下したり、釘のさびを促進したりすることがないような工夫がなされています。
- 処理によって、木材の色が変わることはほとんどありません。
W P C
WPCの利用例 床材料 (東京証券取引所立会場の床)
WPCは木材にプラスチックの性質を付与し、木材の特色を生かしながら、その欠点を改良した複合材料で、WoodPlastic Combination の略称です。WPCは1970年に実用化されました。
WPCの製造法-触媒を溶かした低分子量の液体の樹脂原料を木材中に注入した後、加熱して重合させ、木材中で高分子量の固形の合成樹脂に変化させるという方法が使われています。樹脂液の望ましい条件は、木材への注入性がよいこと、重合性がよいこと、無色で木理を生かすこと、低価格であること、品質の良い製品を作ることなどで、主にスチレン系、メタクリル酸メチル系、不飽和ポリエステル系など使用されています。
また、原料木材の望ましい条件は、注入性が良いこと、木理が生きること、重くないこと、重合阻害を起こさないことなどで、広葉樹ではナラ、カバ、カエデなど、針葉樹ではヒノキ、ツガなどが使用されています。
WPCの利用例)
WPCの特徴
- 強度、かたさ、耐磨耗性、防水性、防湿性、耐汚染性、寸法安定性が向上しますが、比重は大きくなります。
- 固くなるので機械加工は難しくなります。
- 樹脂に染料を添加すれば各種の着色ができます。
WPCの用途-圧倒的に多いのが床板です。住宅用の縁甲板には、 0.5mm厚程度の針葉樹単板をWPCにして台板に積層した複合床板が使用されています。店舗、体育館などの重歩行用床板には、広葉樹の1~3mm厚程度の単板をWPCにして台板に積層した複合床板か、8mm厚程度の板材のWPCが使用されています。その他、銃床、ゴルフクラブヘッド、ゲートボール用スティック、ナイフの柄、万年筆、机、椅子などにも使われています。
アセチル化木材
アセチル化木材の使用例 浴室
アセチル化木材は、木材を化学処理して寸法安定性・耐朽性・耐蟻性及び音響特性を付与した新素材です。アセチル化木材は1986年に実用化されました。
アセチル化木材の製造法-3mm厚程度の針葉樹単板に酢酸ナトリウムなどの触媒を含ませて乾燥した後、無水酢酸中で120~130℃、5~15分間加熱して製造します。一般には、単板積層材、合板の形にして使用します。
アセチル化木材の特徴
アセチル化木材の性能は、本来吸湿性に富む木材中の活性な水酸基(-OH)が疎水性のアセチル基(-COCH3)に置き変わることによって発揮されます。
- 狂いが少なくなります。膨張率を元の木材と比較すると、半分から数分の1と小さくなっています。
- 腐れにくく、シロアリにも喰われなくなります。この理由は、水酸基がアセチル基に変わることによって、木材腐朽菌やシロアリの酵素代謝系などに阻害作用が起こるためと考えられています。
- 音の響きが良くなります。木材は、吸湿すると音の響きが悪くなったり、楽器の音色が変わったりします。ところが、アセチル化木材は、湿度が変化しても音の振動の減衰が小さく、音の変化が少なくなります。
アセチル化木材の用途
- 寸法安定性・耐朽性を生かした用途としては、浴槽、浴室部材(壁材・天井板・ドア)、住宅用エクステリア製品(ぬれ縁・ベランダ・サンデッキ)、公園施設(ベンチ・案内板)、海上構築物(浮き橋・桟橋)、社寺屋根葺き用柿板などがあります。
- 音響特性を生かした用途としては、ピアノピン板、ピアノ響板、ギター・バイオリンの表板、スピーカーボックス、スピーカー振動板がある。
セラミック木材
木材住宅の火災
左:非加熱面
右:加熱面
セラミック木材は、木材の特色を生かしながら無機質の性質を付与し、木材の欠点を改良した複合材料です。一般的にはWIC(Wood-Inorganic materials Composite)と言われます。セラミック木材は1988年に実用化されました。
セラミック木材の製造法
- 二液拡散法:まず、飽水状態にした単板を塩化バリウム水溶液に浸漬し、次に、リン酸水素2アンモニウム水溶液に浸漬します。すると、リン酸イオンが木材内部及び細胞壁中に拡散していき、そこでバリウムイオンと反応して、水に不溶性で不燃性のリン酸バリウムができます。この手順によって、木材に対して約20~ 150%の無機質を含む単板ができます。この単板を積層・接着して無機質複合化合板を製造します。
- ゾルーゲル法:分子内にケイ素、アルミニウム、チタンなどをもつ有機金属化合物を各種の溶剤に溶かして単板に注入し、加熱したり酸やアルカリで処理すると、木材中に不溶性・不燃性の金属化合物ができます。二液拡散法の場合と同様にして単板積層材を製造します。
セラミック木材の特徴
木材の本来もつ木目・色調などの木質感はそのままですが、加工時に刃物が傷み易くなります。難燃性は向上し、「リン酸バリウム複合化合板」は建設省より準不燃材料の認定を受けました。その他、防腐性や防かび性も兼ね備えています。
セラミック木材の用途
難燃性を生かした用途としては、住宅の内外装材・天井材、ビル・オフィス・ホテルの耐火間仕切り壁・防火ドアなどがあります。防腐性を生かした用途としては、エクステリア用材、外装材、浴室部材があります。